0026: KORG M1 手の届くPCMシンセ…じゃなくワークステーション?

手の届くPCMシンセ…じゃなくワークステーション?

YAMAHA DX7に遅れる事5年、KORGが手の届く価格のPCMシンセを発売。数式では作りにくいノイズ成分?そんなら録音しちゃえば良いじゃん!という「波形を録音してそれをループ再生する」というPCMシンセ。

↑今はiPadで触れるアプリに↑

画期的な「価格」

それまでのPCMシンセというかサンプラーは200万円もして、しかも再生時間は2秒!みたいな高価格。

それが、プリセットで様々な高音質のデータが入って20万ちょいで手に入るようになった訳です。 シンセ、ではなくメーカーではミュージック・ワークステーション、と呼称。シーケンサー、エフェクターも内蔵し、一台で色んなことが。

PCMって何

PCMはパルス・コード・モジュレーション。

波高値を16ビットの数値にして、それをデータに。

生楽器の多くが発音してすぐのところにノイズ成分が多く、その後定常状態になるものが多いため、頭をそのまま再生、その後は一定パターンをループする、という作り方が多かったです。

そしてFM派とPCM派が!

同時期、LSIの高集積化とともに、世の中に1番多くシンセを使う「ゲーム機」でも、このFM派とPCM派の抗争が勃発。セガvs任天堂ですね。正確に書くと任天堂はより波形データを小さい容量で作れるADPCMですが。


まあ、バイオリンvsピアノとか意味が無いように、どっちも特徴の違う楽器、なんですけどね。

ところで、このPCM系チップを積んだスーファミでは、高い機材でしかできなかったオーケストラヒットが簡単に使えるため、こんな現象も。

  • グラフィック機能でこれも画期的だった回転拡大縮小機能と組み合わせ、
  • 向こうからタイトルが回りながらこっちに来てオーケストラヒットと共に始まる

というオープニングが乱立。だって使ってみたいじゃないですか、的な。やべー、みんなやってるじゃん、と2周目からは減りましたね。

世界で一番普及したシンセサイザーはゲーム機?

ちなみに世界で一番数が出たシンセサイザー、って当時は多分ファミコンの音源じゃないか説を唱えてます。

なにせ、1000万台の単位で世界中にばらまいた。

それが時を経て。もはやファミコン時代の「ピコピコ」でもビヨーンという音でもなく、リアルな音方面に力を入れた楽器として、発展してきたわけです。

M1ならでは、の音

今聴くとピアノは生よりスッキリして金属的。M1ならではのピアノに。

原理的にはどんな楽音でもいけそうですが、実際の楽器は同じ波形パターンがループ、なんて事はなく、時系列で周波数成分が変化していったりします。また、音域によって波形が異なったりするので「大きいデータ格納場所が有れば」多くの楽器がカバーできる訳です。 当時はこの格納場所であるメモリが高くてすごい苦労したはず。

それだけに、「本物のピアノ」を再現するのに、色々なデータ削減の苦労をした結果、「M1のピアノの音」ができた、と考えています。

初号機からすごいクオリティだから気付いた

初号機であのクオリティ、恐らく波形作りは相当な技術が叩き込まれたはず。外部技術者も動員したと言われてます。 その苦労が結集したM1、内臓のリバーブもいい感じで、弾いてるだけで1日が終わるほど。 この時期、データで曲を作る仕事をしていたのですがここで大事な事に気付けました。

楽器の音を自由に選び、好き勝手なデータで演奏するとその楽器らしさが失われる事が。つまり、ピアノなら同じ音の連打は苦手、ギターなら4度調弦なので同一パターンの4度上がりは簡単、逆にクロマチックな動きは苦手、金管は跳躍は苦手、などの特徴があります。

これを無視すると、その楽器「らしさ」が減る事に。 メカニズムから来る癖、特性などです。

楽器特有の音もあれば特有の奏法がある

それまで、打弦楽器から始まり、木管も金管も弦楽器もパーカッションも手当たり次第やって来た事が、電子作品で活きることになりました。

  • その楽器の美味しい音域
  • 美味しいフレーズ
  • ここぞの頑張りの音域

などが分かるので。 しかし。わざわざ電子楽器使ってる訳です。つまり…

アナログ楽器ができなかった事をやる方向性もある訳です。でも、最初は違いました。

もちろん当時はそもそもリアルを追求しようにもシンセが追いついてなかったので、まずはリアルの再現にのめり込む人が続出。 仕事ではより巨大なメモリを積んだE-MU Proteusも使いました。 でも…

リアルではなく、創作

M1が作った「創作音」シリーズもなかなか味があり。当時の色々な作品で使われてました。 つまり、シンセサイザーだってちゃんと個性があり、その音の良さが作品をエンハンスし、ある種の文化すら作り上げる事が出来てるのです。

確固たるM1サウンドを作り上げて、今でもミュージシャンが使いたくなる良い音なのがすごい。

 

初号機をメルカリに出すか迷ってます。

↓後継機たち。アナログも敢えて作ってますね。


M1写真
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